減速機とは、名前が示す通り、速さを減らす、すなわち回転スピードを下げる機構です。モータはさまざまな用途に使われていますが、ゆっくり動かす用途の場合は、ほとんどこの減速機が使われています。身近な具体例としては下記のようなものがあります。

  • 扇風機の首振り機構
  • 車のワイパー
  • 車のパワーウインドウ
  • 工場の組立ラインなどで使われるロボットハンド

どれもモータで駆動するものですが、目で捉えられる程度の速さですよね。実は、目で捉えられるのは、減速機でモータの回転数を落としているためです。内部の、減速機の入力部に入力されるモータ自身の軸回転数は、目では捉えられない速さで回転しています。このように減速機は、見えないところで重要な役割を果たしています。

また減速機のもう一つの重要な機能として、トルクを増加させることが挙げられます。これはエネルギー保存則から得られる恩恵で、回転数が下がった分のエネルギーが、トルクに変換されるという原理です。小型モータ単体では、大きなトルクを出力することは難しいため、減速機の役割は非常に価値があることは理解できると思います。

今回は、このように見えないところで活躍する減速機について、その種類や機能を、より詳しく見ていこうと思います。

減速機とは

改めて確認すると、減速機とは、モータの出力回転数を下げ、その代わりにトルク(回転力)を高める装置です。もっとかみ砕いて言うと、「スピードを抑えて、力強さを引き出す」ための変換装置といえます。

減速機を使って、モータの回転が1/10や1/50にまで減速されたとき、その分トルクは逆に10倍、50倍と増幅されるため、重いものを動かす・持ち上げる・止めるといった操作が可能になります。

減速機の役割

減速機の役割は減速・トルクアップだけではありません。以下のような点も設計上の大きな利点です。

回転の安定性

ベルトコンベアのような、負荷の大きさが瞬間的に増減するモータの使い方の場合。ベルトコンベアとモータの間に減速機が入っていると、負荷の変動の影響は減速機で緩和されてモータに伝わるため、モータの回転速度の阻害は起きにくく、回転を保ちやすくなります。外乱の影響を緩和できるため、モータ単体では難しい、スムーズな動作が実現します。

出力方向の制御

直交軸と呼ばれる構造を利用すれば、減速機の入力軸と出力軸を90°回転させた配置にすることが可能です。システム的に回転軸の向きを変更したい場合、他の機構を用意することなく減速機で実現できるため、省スペース化にも役立ちます。

自己保持性

一部の減速機(ウォームギアなど)では、自己保持性と呼ばれる機能を持っているものがあります。モータや減速機が停止しているときに、外力が加わっても出力軸が勝手に回転しない性質のことを指します。

たとえば、リフトで荷物を持ち上げ、移動している際に停電が起こった場合。このとき自己保持性がないと、荷物の重さによってモータの軸が逆回転し、落下してしまうことがあります。一方、自己保持性があれば、モータを止めるだけで出力軸も固定されるため、追加のブレーキ装置などを使わずに静止状態を保てます。

駆動ノイズの低減

モータは、その構造上トルクリップルや電流切替などで振動やノイズが発生します。しかし、減速機で回転数を落とすことで、それらのノイズが出力側に伝わりにくくなり、歯車構造によって静音性を向上させられます。

これらの特性からわかるように、減速機は単なる補助装置ではなく、回転機構において重要な要素といえます。

減速機の種類

減速機には非常にたくさんの種類があり、すべてを紹介することはできませんが、主要なものをいくつか紹介します。

平歯車(スパーギア)

もっともシンプルな歯車の形状です。歯が軸に対して平行に並んでおり、かみ合った歯車同士で回転運動を伝えます。構造が単純なため製造コストが安く、メンテナンスも容易です。しかし、歯が同時に接触するため、比較的衝撃が大きく、騒音も発生しやすいという特徴があります。高トルク・低速用途よりも、簡易的な動力伝達やコスト重視の装置に適しています。

はすば歯車(ヘリカルギア)

スパーギアの欠点である衝撃と騒音を緩和したのが、このヘリカルギアです。歯に角度(ヘリカル角)がついており、歯が徐々にかみ合う構造のため、動作がなめらかで静粛性に優れています。その分スラスト方向の力(軸方向の力)が発生するため、ベアリングやシャフトの設計には注意が必要です。工業製品全般に幅広く使われています。

かさ歯車(ベベルギア)

ベベルギアは、軸方向が直交する場所で回転を伝えるための歯車です。円錐状の構造をしており、平行軸ではなく直角の方向へ出力軸を曲げたいときに用いられます。

精度の高い加工が必要で、ややコストは上がりますが、特にスペースが限られた筐体内などで軸方向を変更したい場合は、直交軸の機能が効果的に使えます。

ウォームギア

ウォームギアは、ねじのような形状のウォームと、それにかみ合うウォームホイールから構成されます。非常に大きな減速比(数十倍〜数百倍)を一段で実現できる点が特徴です。また、負荷側からの逆回転が非常に起きにくい、自己保持性も持ちます。安全性が求められる装置や、ブレーキ不要の設計に適しています。一方で、摩擦損失が大きいため効率はやや低く、発熱も多めです。

遊星歯車(プラネタリギア)

ここまで説明してきた減速機は、入力側の歯車一つが出力側の歯車一つとかみ合う、という構成でした。その点で、遊星歯車は異なる構造を持ちます。入力側として中央に配置されるサンギア一つに対し、複数のプラネタリギアがかみ合い、さらにそれを囲むリングギアで構成されます。プラネタリギアは多くの場合3~4で構成され、入力側の歯車一つに対し、3~4つの歯車で出力される形になります。これにより力の伝達が分散されるため、大きなトルクの出力が可能です。

また、入力軸・出力軸は同一軸線上に配置される構造のため、平行軸タイプ、直交軸タイプに比べ装置をコンパクトにできるので、省スペース化にも貢献します。制御性・信頼性ともに高く、サーボモータやロボットアームなどで幅広く採用されています。

ハーモニックドライブ(波動歯車)

金属の弾性変形を利用した、特殊な構造を持つ減速機です。一般的には、平歯車では1段あたりの減速比を2.5~3倍程度とされていますが、このハーモニックドライブは30~320倍ほど商品も存在し、極めて高い減速比を実現可能です。

また、ほぼゼロに近いバックラッシ(歯車と歯車のかみ合わせのガタ)とすることができ、位置決め精度においては他の追随を許さないレベルといわれます。構造上は非常に高コストではありますが、サーボ制御における高精度アプリケーションでは不可欠な存在です。医療、航空宇宙、半導体などの先端分野で使用されています。

サイクロイドギア

歯ではなく「ローラ」を介して力を伝達する構造が特徴の減速機です。衝撃や過負荷に強く、寿命も長いのが特徴です。減速比も大きく設定可能です。構造上、バックラッシが非常に小さいというメリットもあり、高速応答が求められる動作にも向いています。高耐久で信頼性が求められる用途に多く採用されます。

減速機選定の流れ

さまざまな種類、サイズ、性能がある減速機は、やはりその選定方法も非常に大切です。使用するモータや負荷、装置の設置条件などとしっかりマッチしていなければ、せっかくの機構がオーバースペックになったり、逆に寿命を縮めたりする恐れもあります。どのようなことを注意すべきかをまとめて紹介しますので、参考にしていただければと思います。

減速機を取り付けるモータ仕様の確認

まず大前提として確認すべきは、使用するモータの仕様です。具体的には以下の項目のチェックが重要となります

  • 定格出力(ワット数)
  • 定格回転速度(min⁻¹)
  • トルク特性(定格トルク・最大トルク)
  • モータ軸の寸法・取り付け規格

これらの仕様が、減速機側の仕様と“かみ合う”必要があります。たとえばモータ出力が大きすぎると、減速機がモータの出力に耐えられず内部損傷を起こすリスクがあります。

必要な減速比の算出

次に、最終的に必要なトルクや回転数をもとに、必要な減速比を算出します。減速比は、以下のように計算します。

モータ回転速度 ÷ 減速機の出力軸回転速度
例:モータが3,000rpmで、出力軸を100rpmにしたい場合
3,000 ÷ 100 = 30

ただし、減速比は必ずしも整数である必要はなく、近似値で選定することが一般的です。減速比が大きすぎると応答が遅くなり、小さすぎると十分なトルクが得られないなど、バランスが重要になります。

その他必要な仕様を明確化

減速比とモータ仕様が決まったら、以下のような補足条件も明確にしていきます。

  • 出力軸方向(平行軸/直交軸/同軸)
  • 必要トルクの安全率
  • バックラッシ(歯車のあそび)許容範囲
  • 騒音・振動要件
  • 設置スペース・取り付け姿勢(横置き/縦置きなど)
  • 自己保持機能の有無(ウォームギア採用要否など)
  • ロック機構やブレーキ機構との組み合わせ要否

とくに精密制御が必要なロボット分野や医療機器では、バックラッシの値がシビアに指定されることもあります。たとえば医療機器などでは、あそびがある=緩み、ほんの少しの逆回転を許容してしまうといったことにつながり、薬液量の誤差などが生じ、大きな問題につながりうるためです。

一方、搬送機構のような用途では多少のあそびがあっても問題ない場合も多く、必要性能とのバランス感覚が重要です。これらの要素を見定めたのち、見合うスペックの減速機を探すことになります。

場合によってはモータからの選定も必要

既存のモータを利用する場合は、モータ仕様を元に減速機を探すことになりますが、どのモータを使うか決まっていない場合や、必要な機能を満たすために減速機が決まっている場合などは、「減速機にあわせた最適なモータを選ぶ」こともあるかと思います。

たとえば非常に高精度な位置決めが必要な場面では、あらかじめバックラッシの少ない減速機を選び、その駆動条件に合致するモータを選定する、というような流れです。

この場合であっても、先に示した項目に注意しながら、適切なスペックのモータを選んでいくことが大切です。いずれにしても、モータと減速機の組み合わせがうまく“かみ合う”ことが大切です。

減速機とモータは“切っても切れない関係”であり、両者をセットで最適化することで初めて、装置全体としての安定性・効率性・長寿命が実現されます。

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