DCモータにはさまざまな種類がありますが、中でも最も安価で広く使われているのが「ブラシ付きモータ」です。小学校の理科の実験やおもちゃなどにも使われているため、「モータ」というとこのモータをイメージする方が多いかもしれません。

その名のとおり、構成部品に「ブラシ」と呼ばれる部品が使われています。このブラシの働きによって、複雑な電子部品や制御装置を用いることなく、直流電源をつなぐだけで回転することが可能になります。低価格を実現できるのはブラシのおかげと言っても過言ではありません。

さて、ブラシ付きモータにおいては、ブラシ摩耗対策が重要だと言われます。ブラシは回転軸に物理的に接触し続ける部品です。電気信号を伝達するためには接触する必要があり、とても重要な役割を担っています。回転体に接触し続けるということは摩擦力を受け続けるということですから、徐々に摩耗していきます。摩耗が進んで寿命を迎えると電気信号の伝達ができなくなり、最終的にはモータの回転が止まってしまいます。すなわち、摩耗のスピードがモータ寿命に直結します。そのため、摩耗を少しでも遅くし、モータとしての寿命を伸ばすことが技術的に求められてきました。

今回は、このブラシの摩耗について見ていきます。どのような方法で摩耗対策を行っているのか、ご理解いただけますと幸いです。

ブラシ付きモーターの構造を理解する

まずは、ブラシがどのような環境で機能しているのか、その構造を確認していきます。

回転子(ローター)・整流子(コミュテータ)・ブラシの役割

ブラシ付きモータにおいて、モータの外部に飛び出している回転シャフトは、内部の回転子(ローター)につながっています。ローターはコアと呼ばれる積層された金属板(電磁鋼板)で形成されており、そこにはコイルが巻き付けられています。このコイルに電流を流すことで「電磁石」として機能し、周囲に配置された永久磁石との引き合う力や反発する力を利用することで回転が生み出されます。

回転し続けるためには、ローターの回転に合わせて電流の向きを次々に切り替え、N極とS極の配置をコントロールする必要があります。この電流の切り替えを「物理的」に行うスイッチの役割を担うのが整流子(コミュテータ)であり、そこへ電気を送り届けるのがブラシ、という構造になっています。回転していくうちにブラシと整流子の接触面が切り替わり、自動的にコイルを流れる電流の向きが逆転する構造となっています。

ブラシ付きDCモータ 簡略構造図

※上記の説明図は、原理を理解するために、各要素をシンプルに表記しております。実際のモータは、ロータは3~6スロット(コイルを巻く箇所が3~6箇所)、ステータ(永久磁石)が2~6極(NS極が1~3対)となっていることが多いです。(下図参照)

ブラシ付きDCモータ 実際の構造図

ブラシ摩耗が起きる「根本原因」

ブラシの摩耗は、一見物理的な接触による摩擦のみで生じているように見えますが、実際は複数の要因から発生しています。

物理的摩耗

先にも挙げたとおり、最もわかりやすい要因です。ブラシはその機能を発揮するために整流子から離れることができず、常に接触している必要があります。そのため、バネの力などによって整流子に押し付けられ、離れないよう圧力がかけられています。この物理的な摩擦によって、少しずつ削られていきます。

電気的摩耗

ブラシと整流子の接触部には電流が流れていますが、ここを流れる電流の状態によって摩耗の程度が変化します。回転数を変える際には電流の大きさが変動しますが、この変動により接触部の電流密度が変化し、発熱の程度も変わるため、摩耗の速度が変化します。

また、ブラシと整流子との接触面積も電流密度の変化につながり、摩耗に影響します。これらは次項でも紹介するスパークの発生にも関連します。電気的な影響は、突き詰めると局所的な発熱とスパークを生み、それが摩耗として現れる、と考えておくとよいかと思います。

熱・化学的劣化

上記で挙げた電気的影響や、コイルなどによる内部発熱によって周囲温度やブラシ自体の温度が上昇すると、ブラシ材料が酸化したり柔らかくなったりして、摩耗が進みやすい環境につながります。

ブラシ摩耗を加速させる代表的な現象:スパーク(火花)

スパークとは、いわゆる火花のことです。ブラシと整流子が切り替わる瞬間に発生するスパークは、寿命に対する最大の敵の一つです。

スパークはなぜ発生するのか

本来は物理的接触によって流れるはずの電流が、一瞬だけ空間を伝って流れることがあります。これがスパーク現象です。以下のような状況が起きたとき、流れ続けようとする電流の性質(逆起電力)が働き、空気中に放電として現れます。

  • 電流の流れが切り替わる際、ブラシと整流子が物理的に離れる瞬間
  • ブラシ表面、もしくは整流子表面が荒れており、適切に接触できていない場合
  • ブラシが整流子に接触する圧力が不適切な場合
  • 振動などの外部要因によって、ブラシと整流子が瞬間的に離れる場合

スパークが引き起こす悪循環

スパークは瞬間的に非常に高い温度に達するため、整流子やブラシの表面を溶かし、荒れた状態を発生させます。これにより摩擦や電気的抵抗が増大します。そして、これがさらなる発熱とスパークを呼び、摩耗が加速する「負のループ」に陥ります。

ブラシ寿命の目安と「劣化のサイン」

一般的なブラシ寿命の考え方

まず前提として、ブラシ付きモータには、ブラシ交換ができるものとできないものがあります。交換できないものは「ブラシの寿命=モータの寿命」です。交換できるものは、定期点検・メンテナンスをきちんと行い、寿命が来る前に交換するといった運用がなされます。

では、ブラシの状態がどうなると寿命だと判断するかというと、基本的には「安全に・安定して使える状態を保てなくなった時点」を寿命と考えるのがよいかと思います。具体的には、ブラシの長さ(厚み)が規定より短くなったときや、接触状態が悪くノイズや異音が増えた、スパークが頻繁に起こる、電流値の変動が激しい、など、さまざまな判断基準が存在します。

ブラシを交換する前提で使用する場合は、これらの項目においてOK/NGの判断基準を設け、定期点検を行う必要があります。

交換や点検の判断ポイント

「動いていても、求める性能が出ていない」状態でそのまま使い続けるのは危険です。

  • 以前より回転音が大きくなった(騒音・振動の発生)
  • 回転速度が不安定になった
  • 目視で激しい火花(スパーク)が見える
  • 発熱が以前に比べて悪化している
  • ブラシの摩耗粉と思われる黒粉が異常に増加している
  • 電流値の変動が激しい
  • ブラシの長さ(厚み)が規定以下

上記のような兆候が見られる場合は、寿命が近い、もしくはすでに寿命に達している可能性があります。

ブラシ摩耗を抑える設計・運用のポイント

機械的摩耗対策:接触条件・整流子状態を整える

整流子の取り付け精度やブラシの押し付け圧力を最適化し、接触圧力に偏りがないこと、また使用環境に合ったブラシ素材を選び、摩耗しにくい材料を選定することが重要です。回転軸の偏心度合いが大きいことも悪条件となるため、注意が必要です。

また、整流子側でできることとして、表面状態を良好に保つことも有効です。表面が荒れていたり、黒い被膜で覆われていたりする場合は、メンテナンス時に研磨する、部品交換する等の対応も有効です。

電気的摩耗対策:電流密度を超えないことが最重要

ブラシの許容電流を超えた運用は、急激な発熱や急激な摩耗を招きます。過負荷での駆動を避けることが、内部発熱を抑え、寿命を延ばす基本となります。

また、モータの駆動条件も重要です。急加速・急停止・急反転など、速度変化の度合いが激しい使い方をすると、ブラシと整流子の接触条件が変動し、摩耗の程度に影響するといったことも考えられます。

初動時に一気に動かす場合の対策(突入電流・過負荷)

特に起動時に急激な速度上昇をさせると、静止摩擦力の影響で摩耗にも悪影響ですし、瞬間的に大きな電流(突入電流)が発生するため、スパークも発生しやすくなります。いずれも良いことがありません。スロースタートなどの制御を導入することが有効です。

スパーク対策:整流を安定させる

物理的にブラシと整流子との間に隙間を作らないことが重要です。ブラシの圧力が弱いと隙間が生じますし、圧力が強すぎると摩耗が加速して発熱し、その結果として表面が荒れ、隙間が生じることがあります。圧力が強くても弱くてもだめで、適切な圧力設定が大切です。

また、駆動条件を調整して電流値の急変化を生じさせないことも重要です。ほかにも、軸受のアライメントやローターのアンバランス値、共振回転数で使用しないことなどを考慮して使用することが大切です。

ブラシ摩耗対策に関するFAQ

ブラシ摩耗が早いのですが、最初に疑うべき原因は?

多くの場合、以下のどれかが原因です。
・電流密度が高すぎる(過電流)
・起動時の突入電流が大きい
・ブラシの圧力が偏っている
・整流子表面の荒れや汚れ
・振動・芯ブレなど機械要因
まずは物理的な問題か、電気的な問題かを切り分けるために、「軸の偏心やアンバランス等のアライメントの確認」「ブラシの摩耗の偏り確認」「起動時の負荷が重くないか」「定常時の電流が許容範囲か」を確認すると、原因切り分けが速くなります。

起動時だけブラシ摩耗が進む(スパークが出る)のはなぜですか?

起動時は停止状態から回転を立ち上げるため、負荷が大きいと突入電流が増大しやすく、その結果、電気的摩耗・スパーク増加が起きます。
▼対策例▼
ソフトスタート(急加速を避ける) ※制御回路が必要
起動時負荷を軽くする(機械側条件の見直し)
ブラシ仕様(材質・サイズ・圧力)見直しで接触状態を改善し、電流密度を下げる
初期の慣らし運転(接触面に適切な皮膜を形成)

ブラシを強いスプリングで押し付けると寿命は伸びますか?

一概には伸びません。押付け力を強くすると接触は安定しやすい一方、機械的摩耗が増える可能性があります。返って悪化する可能性もあります。
逆に弱すぎても接触が不安定になり、その結果スパークが増えて電気的摩耗が進むことがあります。
適正な押付け力とブラシ摺動状態が重要です。

ブラシが偏摩耗するのはなぜですか?

代表的な原因は以下です。
・ブラシホルダーの傾き・ガタ
・整流子偏摩耗や芯ブレ
・振動や外力
・ブラシがスムーズに動いていない(摺動不良)
・回転体のアンバランスが悪い
偏摩耗は整流悪化やスパーク増加につながるため、早期点検が推奨されます。

整流子が黒くなるのは問題ですか?

必ずしも異常とは限りませんが、黒化が濃い/局所的/ムラがある場合は、以下が起きている可能性があります。
・スパーク増加
・ブラシ材の転移
・整流不良
整流子表面の荒れやムラが出ている場合、ブラシ摩耗が加速する恐れがあります。

ブラシ材質を変えるだけで摩耗は改善しますか?

改善する場合もありますが、根本原因が以下の場合は材質変更だけでは不十分なケースが多いです。
・過電流(電流密度超過)
・起動条件(突入電流)
・整流子状態
まずは原因を切り分けたうえで、材質選定を行うのが確実です。

ブラシ摩耗対策として最も効果が大きいのは何ですか?

A. 使用環境に応じて変わってきますので、これが一番よい、と言えるものはありませんが、「許容電流密度を超える」ことは非常に悪い方向に働きます。
特に以下のタイミングで電流密度が上がりやすく、摩耗が進みやすくなりますので、避けることは重要と言えます。
・起動時
・高負荷時
・連続運転時
・電流条件・起動条件
上記の見直しが摩耗対策の最優先ポイントです。

ブラシ摩耗が嫌なのでブラシレスモーターに変えるべきですか?

保守頻度を下げたい、粉塵が問題になる、長寿命が必須などの場合は、ブラシレスモーターの採用が合理的なケースもあります。
ただし、コスト・制御回路・寸法などの制約もあるため、「寿命・保守・コストの優先順位」で判断するのが良いです。
保守頻度が下がれば、ランニングコストも下がるので、長い目で見ればブラシレスモータのほうが有効な場面も多々あります。

ブラシ付きモーターについてはユニテックへご相談ください

ユニテックでは、お客様の使用環境(負荷、温度、湿度など)をヒアリングし、最適な部品選定と設計を行います。制御不要であれば圧倒的にコスト面で有利なDCモータ、また簡易的な速度制御であれば簡単にコントロールできるメリットもあるDCモータなど、用途に応じた最適解をご提案します。