モータ設計において、具体的な設計を進める前に確認しなくてはいけないことがいくつかあります。例えば、販売予定の地域・国や、どのような用途に使われるのかという点です。ここを押さえておくことは、設計の視点では最重要と言ってもよいポイントです。

国や用途によってさまざまな法律・法令・ルールが存在しており、その中には工業製品に関する規制も多数含まれます。国を超えたグローバルなルールももちろん存在しますが、独自のルールを持つ国もあります。そのことを知らずに設計を完了させた製品は、特定の国では使用できない、といった事態も起こり得ます。

筆者が実際に経験した事例を挙げてみます。筆者が現場で設計業務をしていた時代は、中国の勢いが徐々に増してきた時期であり、中国への販売ルートを拡大することが売上向上の重要な施策となっていました。中国企業からの問い合わせも増え、モータの販路拡大に向けて日々業務に取り組んでいました。そうした中、ある中国企業と要求仕様を確認する打ち合わせで、「CCC規格に対応はできるか」という質問を受けました。

CCCとは、中国国内の安全保護や環境保護などを目的とした規格で、これを満たすように設計しないと、場合によっては中国国内では使用できないこともあり得ます。その当時は、これから中国市場を開拓していくというフェーズであったため、CCC規格は初めて耳にするものであり、製品開発の前に規格を学ぶところから始める必要がありました。

こうしたお客様の要求仕様や要求規格を確認せずに設計を進めてしまうと、後々「規格を満たしていない」という状況が発生し、設計を一からやり直すといった事態が起こり得ます。

今回取り上げる「絶縁階級」は、各種規格の中で指定されている場合もあります。そのため、お客様が指定する規格を満たすには、この階級が必要になるという手順で設計を進めることになります。設計の前段階で理解しておかなければならない概念ですので、モータ設計者の方にはぜひ押さえておいていただきたい内容です。ぜひ最後までお付き合いください。

絶縁階級(耐熱クラス)とは

絶縁階級は、モータがどの温度環境でどの程度の寿命を想定できるのかを決める、設計の土台となる指標です。近年は効率化が進んでいるとはいえ、求められる出力は高まり続けており、モータ内部の温度上昇はますます厳しくなっています。その中で、絶縁階級の考え方を正しく理解し、設計に落とし込むことは、信頼性確保の観点からますます重要になっています。

絶縁階級とは、モータ内部の絶縁部品が「何℃まで使用可能か」を階級分けしたものを指します。対象となるのは、巻線被覆、巻線とモータコアを隔てるスロットライナ、相間絶縁材など、電気的絶縁を担うすべての部品です。モータが回転すると、銅損や鉄損が熱として発生し、内部温度が上昇します。この温度が絶縁材料の耐熱仕様を超えた状態が継続すると、材料は劣化し、割れ・欠け・変形・溶融などが発生します。最終的には短絡に至り、その箇所によっては致命的な故障や事故につながります。

絶縁階級(耐熱クラス)の一覧

では、具体的な絶縁階級の内容について説明します。まずはその定義を示します。

絶縁階級許容最高温度(℃)備考
Y級90樹脂・紙系材料、現在はほぼ使用されない
A級105低出力・低温用途
E級120小型モータの一部
B級130旧来の標準クラス
F級155現在の主流、インバータ駆動で多用
H級180高出力・高密度設計
C級180以上特許用途

モータにおいては、長年B種が標準とされてきましたが、高出力化が進む中でF種を求められる用途が増え、現在では実質的にF種が標準レベルとなっています。超高速回転で使用されるモータでは、H種を求められる場面も増えてきました。筆者の経験では、ルータ・サーバ業界で使用されるファンモータにおいて、H種を要求されることがよくありました。業界No.1クラスのルータ・サーバになると、冷却ファンのブレード先端は新幹線よりも速い速度に達します。そのためモータの発熱も非常に大きく、H種が求められることも珍しくありません。

モータ設計における絶縁階級

どの温度まで、何年使える設計かを決める基準

絶縁階級は「この温度まで使える」という単純な上限値ではありません。実際の設計では、想定される周囲温度、モータ内部の温度上昇量、期待寿命などを組み合わせて検討します。例えばF種であれば、運転条件の範囲内でモータ内部温度が155℃を超えないことを前提とし、さらに各温度条件における寿命を算出し、十分な寿命時間が確保できるように熱設計を行います。

一般に絶縁材料の寿命は温度に対して指数関数的に短くなります。そのため、同じF種であっても「155℃近傍で使用する設計」と「130℃程度で余裕を持たせる設計」では寿命に大きな差が生じます。こうした点を踏まえずに設計を進めると、内部発熱が高すぎることが判明し、商品化が見送られる可能性もあります。

一方で、モータは回転機構を持つため、寿命の観点では軸受の存在を無視できません。一般に「モータの寿命=軸受の寿命」と言われることが多く、絶縁寿命よりも先に軸受寿命が到来するケースが一般的です。モータの寿命は、複数の視点を組み合わせて総合的に設定することが重要です。

「温度・寿命・出力・コスト」のトレードオフを踏まえて設計する

高出力化を狙えば発熱は増え、寿命を確保しようとすれば余裕のある設計が必要になります。また、高耐熱材料は高コストであり、これらを採用すると部品加工コストや組立工程コストにも影響します。

  • 出力を上げたいが、温度上昇は抑えたい
  • 寿命を延ばしたいが、出力は下げたくない
  • コストを抑えたいが、高耐熱材料は使いたい

これらは常にトレードオフの関係にあり、一方を満たせば他方に影響が及びます。絶縁階級を満たすためには、こうした要素のバランスを適切に取りながら設計を進めることが重要です。

最新の設計トレンド

インバータ駆動ではF種以上が基本

インバータ駆動では、高周波スイッチングによる追加損失や局所発熱が発生し、熱の影響を大きく受ける状態となっています。このため、F種以上を前提とした設計が事実上の標準となっています。

部分放電対策は絶縁設計の中心

高電圧・急峻なdv/dt環境は、モータ内部の基板関連部や巻線部における短絡の主因となります。単に耐熱クラスを上げるだけでなく、巻線構造・エッジ処理といった設計・製造面での配慮が不可欠です。

高速・高密度化はH種評価と熱マネジメント

モータの小型化・高出力密度化が進む中で、H種を前提とした設計や評価は増加しています。熱対策として、放熱構造や冷却方式を含めた熱マネジメント設計が絶縁設計と一体で検討されるようになっており、モータも単なる駆動機構ではなく、冷却機構と一体化した設計が求められるケースも少なくありません。

材料進化を設計プロセスに組み込む

近年は、耐熱性や耐部分放電性に優れた新材料が次々に登場しています。これらを単なる置換材料として現行品との比較評価を行うのではなく、新材料が継続的に開発されることを前提に設計を考えておくことが、競争力のあるモータ設計につながります。

成形材料の変更評価を迅速に実施できるよう専用金型を用意しておく、評価基準を事前に策定して関係者間で合意形成を図っておく、新規材料を積極採用するための迅速な評価手法を確立しておくなど、技術革新を吸収できる体制を整えることが重要です。そうした準備が、柔軟かつ迅速な対応を可能にします。

階級選定は仕様の最初で固定する

冒頭でも触れましたが、絶縁階級を設計開始時点で決定しておくことは非常に重要です。絶縁階級が変われば、評価基準が変わり、設計の自由度も変化します。設計後期に変更が生じれば、複数部品や生産ライン設計にも影響が及びます。そのため、「仕様検討の初期段階で絶縁階級を決定し、以後は前提条件として扱う」という進め方が、設計リスクを抑えるうえで重要です。

絶縁階級に関するFAQ

「F種モータ」「H種モータ」とは何が違うのですか?

主に許容最高温度が異なります。B種は130℃、F種は155℃、H種は180℃が目安です。
階級が高いほど高温運転や高出力密度化に有利ですが、材料や工程のコストは上がりやすく、コストアップに直結します。

絶縁階級が高いほど良い設計ですか?

必ずしもそうではありません。
高階級は小型高出力や高温環境に向きますが、用途によっては過剰品質となりコスト増につながります。長寿命や低コストを優先するなら、必要十分な階級を選ぶのが合理的です。

絶縁階級はどの部品で決まりますか?

絶縁階級は単一部品ではなく、巻線、スロットライナ、相間絶縁、含浸ワニスや樹脂、構造上の絶縁距離などを含む絶縁システム全体で決まります。
原則として、最も耐熱性能が低い要素が全体の階級を支配します。

ワニスだけH種なら「H種モータ」ですか?

いいえ。
ワニスがH種であっても、スロットライナや相間絶縁がF種であれば、モータ全体としてはF種相当になります。階級は最も弱い部材を基準に判断します。

絶縁階級と温度上昇限度の関係は?

A. モータの発熱温度上昇限度+周囲環境温度が、絶縁階級で設定されている許容最高温度を上回らないような設定としています。
たとえば、モータの仕様書に、使用温度範囲のスペック上限が60℃と記載があった場合、F種の条件を満たすためには、温度上昇限度+60℃が155℃を超えないように設計されている、ということになります。どんな条件でモータが回ったとしても、F種の許容最高温度である155℃を超えないように設計されている、と理解頂ければと思います。

F種絶縁をB種温度で使う設計は問題ありませんか?

問題ありませんし、むしろ一般的です。
階級に対して低い温度で運用することで、絶縁劣化が抑えられ、寿命と信頼性が向上します。

絶縁寿命と温度の関係は?

絶縁寿命は温度に強く依存し、経験則として温度が10℃下がると寿命は約2倍になるとされています。
そのため温度マージンは寿命設計の重要な要素です。

インバータ駆動ではなぜ高い絶縁階級が必要ですか?

インバータ駆動ではdv/dtの大きいスイッチングやサージ電圧、高周波成分により電気的ストレスが増え、部分放電や局所的な絶縁劣化が起こりやすくなります。
そのためF種以上を前提とし、構造や含浸品質を含めた対策が必要になります。

絶縁階級と部分放電(PD)は同じ概念ですか?

同じではありません。
絶縁階級は耐熱性能の区分であり、部分放電は電界ストレスによって生じる現象です。H種であっても部分放電対策が不十分であれば、早期故障につながります。

高速モータではなぜH種が多いのですか?

高速化により鉄損や風損が増加し、温度上昇が厳しくなるためです。
小型高出力化との両立を図る上で、熱マージンを取りやすいH種が選ばれるケースが多くなります。

絶縁階級は設計のいつ決めるべきですか?

設計初期に決めるべきです。
絶縁階級は出力密度、冷却方式、寸法、材料、製造工程、コストに影響するため、後から変更すると設計全体の整合が崩れやすくなります。

絶縁階級を上げれば冷却設計は楽になりますか?

楽にはなりません。
階級を上げても温度そのものが下がるわけではなく、効率や寿命は依然として熱設計に依存します。冷却を軽視して階級だけ上げる設計は失敗につながりやすいです。

実務で最も多い選定ミスは何ですか?

材料単体で階級を判断してしまうこと、インバータサージなどの電気的ストレスを見落とすこと、測定温度とホットスポット温度を混同すること、カタログ表記を絶縁システム全体の保証と誤解することが、代表的なミスです。

絶縁階級を考慮したモータ設計・製造ならユニテックへご相談ください

絶縁階級はあまり表立って語られるテーマではありませんが、モータの寿命・信頼性・設計自由度を大きく左右する重要な要素です。絶縁階級に関してお困りのことがあれば、ぜひご相談ください。