モータ用語の中でも、あまり一般的ではない言葉のひとつとして、「エアギャップ」という用語があります。これは、回転する軸側の「ロータ(回転子)」と、その周囲に固定されている「ステータ(固定子)」との間に存在する、わずかな隙間のことを指します。端的に言うと、「永久磁石とモータコア(電磁石)との隙間」となります。構造的に設計自由度が大きくないこともあり、話題に上がることは少ないパラメータかと思います。
ところがこの値は、永久磁石と電磁石の間に発生する引力・反発力の大きさに直結するため、モータの特性を決めるとても重要なものとなっています。その隙間は数ミリ、あるいはコンマ数ミリという非常に小さな値ですが、製品の性能を左右するほどの影響力があります。

Contents
エアギャップがモータに及ぼす影響
エアギャップの大小は、モータの諸特性にダイレクトに影響を及ぼします。先ほどお伝えしたように、「永久磁石と電磁石との距離」がこのエアギャップであるため、「隙間を狭くすればするほど、磁力の影響を大きくすることができる」という関係になっています。
では、単純に狭くすればよいかというと、そういうものでもなく、狭くした際に生じるメリットとデメリットのバランスを見極める必要があります。どのような影響があるのか、具体的に見ていきます。
磁束密度への影響
モータは、永久磁石と電磁石の引力・反発力を利用して回転しています。多くの方の記憶にあると思いますが、「フレミングの左手の法則」を思い出してみてください。コイルに流れる電流をIとすると、力FはF=I×Bと表され、磁束密度BによってFが変動することがわかります。エアギャップを狭くするということは、この磁束密度Bが高まることを意味します。これは非常に単純な話で、磁石のN極・S極の距離を近づければ引き付け合う力が強くなる、ということと全く同義です。
トルク特性への影響
磁束密度が高まれば、引力・反発力が大きくなり、当然「回転する力=トルク」も向上します。同じサイズのモータであっても、エアギャップを極小化することで、より力強い回転、すなわち高いトルクを得ることが可能になります。トルクが高いモータを開発できれば、モータの小型化につながり、さまざまな機器の小型化に貢献することが可能となります。
エネルギー効率への影響
エアギャップが狭いと、少ない電流でも必要な磁力を十分に確保できるようになります。モータにおいて、コアの巻線抵抗を流れる電流による発熱は「銅損」と呼ばれる損失となりますが、少ない電流で済むということは、この銅損を抑えることができるという意味です。結果として、モータが消費する電力をより多く回転運動のエネルギーに変換できるようになり、電力効率が高まり、省エネ性能の向上につながります。
騒音・振動への影響
ここまで、エアギャップを狭くすることによるプラス面を説明してきましたが、当然ながらマイナス面も存在します。エアギャップを詰めすぎると、引力(プラス方向の力)と反発力(マイナス方向の力)の絶対値(振幅)が大きくなるため、コギングトルクの増加につながります。これにより、回転時の振動が悪化したり、電磁音が発生する要因となる場合があります。振動が大きくなると、最悪の場合、機械的共振を引き起こし、大きな問題になることもあります。
製造難易度・コストへの影響
エアギャップが狭いことによるメリットを活かす場合、極限まで狭くしたいところではありますが、実際にその隙間を小さくするのは簡単ではありません。エアギャップの設計では、部品の寸法公差や組付け精度はもちろん、運転中の温度変化による部品の膨張や、回転による遠心力などを考慮する必要があります。隙間を狭くしすぎてしまうと、運転中の熱膨張によってエアギャップがゼロになり、ロータとコアが干渉して回転が停止してしまうこともあります。したがって、エアギャップを詰める設計はリスクが高いと言えます。
狭い値を実現するためには、非常に高い加工精度や寸法管理が求められ、製造難易度は大きく上昇します。その結果としてコスト増につながってしまいます。前項の騒音・振動の問題がなかったとしても、採用は避けたいところです。
モータ設計におけるエアギャップの考え方
設計開発においては、求められる性能とコスト、そして「物理的な限界」のバランスを慎重に検討しなければなりません。具体的にどのような対応が行われているのかを紹介します。

設計段階での考え方
目標出力に対する最適なエアギャップ値の設計
ターゲットとするトルク性能や効率と、コギングトルクの発生による振動・騒音の許容範囲を天秤にかけ、シミュレーションを通じて最適なエアギャップ値を算出します。専用の解析ソフトなどを用いて、永久磁石やモータコアなどの主要部品の素材や形状とあわせて決定していきます。
機械クリアランス設計
前項ではモータ出力性能における設計の考え方について述べましたが、同時に機械的な観点での検討も行います。あらゆる場面や条件を想定し、最悪の状態でもエアギャップがゼロにならない(=クリアランスが維持される)ように、各部品を設計する必要があります。静止時はもちろんのこと、モータが動作している最中の状態も考慮しなければなりません。
熱による部品の膨張や、高速回転時の遠心力によるロータの変形、衝撃を受けた際の影響などを踏まえ、仕様範囲内で想定されるあらゆる条件においても「ロータとコアが干渉しない」よう、安全なマージンを確保する設計が求められます。モータがどのような環境で使用され、どの程度発熱するのかといった点については、机上の計算だけでは検証しきれない場合もあります。
そのため、試作品を用いた温度評価試験などの実験を、必要に応じて実施します。また、実際の使用環境について顧客に確認しておくことも重要です。
電流制御など最適な制御の適用
エアギャップの調整とあわせて、電流制御方式を調整することにより、モータ全体の機能を最適化することも行われます。例えば、ネオジムなどの強力な磁石を使用する場合、コギングトルクが大きくなりすぎて振動が増大してしまうことがあるため、エアギャップを可能な範囲で大きく取りつつ、電流制御を調整することで振動を低減するといった対応が行われます。
また、防水対策などでステータを丸ごと樹脂やシリコンゴムで覆う設計の場合、ステータと磁石との距離を物理的に大きく取る必要があり、構造上、磁束密度が低くなってしまいます。
そのため、これを電流制御で補うといった対応も行われています。エアギャップに限ったことではありませんが、さまざまな要素を適切に組み合わせて調整することで、ターゲットスペックを達成していきます。
試作・評価段階での考え方
温度試験などによるエアギャップ変動の評価
先の項目でも少し触れましたが、エアギャップの設定値に問題がないことを確認するためには、現物で実験を行うことがやはり重要です。しっかり計算で導かれていたとしても、後々取り返しがつかなくなるような項目については、実物での検証が必須であると筆者は考えています。今回のエアギャップにおいては、その値はひとつの部品で決まるものではなく、数多くの部品の寸法値が関係しています。
もしその設計値を変更する必要が生じた場合、さまざまな部品の寸法や材質の変更を検討する必要が出てきます。量産体制に移行する直前でこれを変更することは、大きな時間と労力のロスとなります。
そのため、試作段階で評価用のサンプルをある程度の数製作し、各種信頼性試験を実施しておくことが重要です。試験時には、モータの内部発熱や環境温度による部品の膨張・収縮に伴う寸法変化などにも注意して評価を行い、高温や低温といった過酷な条件下でもエアギャップがゼロになってロータとステータが接触しないかを評価・測定することが重要です。
防水対策(ステータポッティングなど)との兼ね合い確認
屋外や水回りなどで使用される防水・防塵仕様のモータでは、ステータのコイル部などを樹脂で完全に覆う「ポッティング」と呼ばれる防水処理を行うことがあります。ポッティングにはさまざまな材質が用いられますが、シリコンゴムなどを使用する場合は、その膨張率が一般的な樹脂よりも大きいため、温度変化時には特に注意が必要です。
さらに、粉塵が舞う環境での使用を想定している場合、粉塵の粒径によってはエアギャップに入り込み、ロータの回転が停止してしまう可能性もあります。このような場合には、ラビリンス構造などを採用し、異物が内部に侵入しないような設計とする必要があります。特殊な環境に耐えられるモータとするためには、こうした付加的な処理との兼ね合いについて、実機での確認が不可欠となります。
磁気吸引力評価(組立・分解のしやすさなど)
性能を重視して設計すると、意外と見落としがちなのが組み立て性です。どれほど優れた性能のモータを設計しても、量産できなければ意味がありません。ここで、筆者の実際の失敗談を紹介します。
省エネを目指し、電力効率の向上に取り組む中で、エアギャップを極小化し、非常に強力なネオジム永久磁石を採用した場合の性能を確認しようと、試作品を製作したことがありました。部品が到着し、組み立てを開始。ロータをステータにはめ込もうと近づけた瞬間、あまりにも強い引力によって手からロータがすり抜け、ステータ側に「バチン」と一瞬で吸着する様子が目の前で繰り広げられました。何が起こったのか分からないほどの速さで、怪我をしなくてよかったと思うほどでした。
ステータに引き寄せられたロータは、手では外せないほどの引力を発揮しており、取り外すためにはハンドプレスなどで「てこ」の力を利用しなければならない状態でした。この時点で組み立て性はNGと判断し、量産は不可能と結論づけました。机上の計算だけではこのような事象は把握できず、現物評価の重要性を再認識した出来事でした。
ここまで極端なケースは多くないかもしれませんが、社内のライン設計部署や組立現場との連携も重要なポイントです。作業者が安全かつ確実に組み立てられるか、専用の組立治具や設備が必要になるかなど、量産や保守管理を見据えた評価を行いながら開発を進めていくことが、工業製品におけるものづくりです。
磁気中心確認、影響確認
ロータとステータを組み立てると、先の例のように磁力によって吸い込まれる形で、ロータとステータの軸方向の位置が自動的に決まります。これは、磁力的な引き合いの中心位置において、磁力が拮抗して安定している状態(磁気中心)です。この位置はあくまで磁力によって決まるため、バックヨークの形状によっては、見た目の中心位置(=寸法上の中心位置)と磁気中心が一致しない場合もあります。
この点に気づかずに設計を行ってしまうと、軸受の予圧設計に影響を与え、予圧が過大になったり、逆にゼロになってしまったりする可能性があります。その結果、異常な摩耗や振動、騒音を引き起こすといった事態も発生します。見た目では気づきにくいため、設計時には漏れのない確認が必要なポイントです。
製造段階での考え方

高精度加工
シビアなエアギャップが求められる場合、ステータコアや回転軸、あるいは永久磁石の寸法に対して「ワンランク上の寸法管理」を適用する必要があります。具体的には、部品単体の寸法公差を厳しく設定したり、アセンブリ状態で追加工を行ったりといった対応が挙げられます。
ロータ動バランス調整
ロータが安定して回転するためには、バランスを調整する工程が必要です。この概念は「洗濯機の脱水工程」を想像するとわかりやすいでしょう。脱水開始時にガタガタと振動していたものが、内部の洗濯物が均等に配置されてバランスが取れると、安定して高速回転できるようになります。
これと同様に、ロータのバランスが不均衡だと振動が大きくなり、狭いエアギャップでは干渉の原因となり得ます。そのため、組立工程において精密なバランス調整の実施が求められます。
同軸度管理・組立時の偏心管理
軸の中心とステータの中心がずれる(偏心する)と、位置によってエアギャップが不均一になり、異音や振動の原因となります。軸と軸受の嵌め合いに不良がないか、組み付け精度のチェックを厳密に行うことも、状況に応じて必要となります。
上記で挙げた作業は、許容値や公差を厳しくすればするほど工数が増えるため、コスト増につながります。工場側にとっても負担が大きく、できることなら設計段階での工夫により、可能な限り緩和できることが理想です。設計の進め方次第で工場の負担は大きく変わるため、設計部の責任の大きさがよく分かる事例と言えるでしょう。
エアギャップに関するFAQ
静偏心はどのような問題を引き起こしますか?
ロータ中心とステータ中心が恒常的にずれる(静偏心)と、エアギャップが不均一になり磁束が偏在します。その結果、振動や騒音が増加します。最悪の場合は接触やベアリング寿命低下につながります。量産では公差積み上げの影響が顕在化しやすい点も注意が必要です。
動偏心はどのように性能へ影響しますか?
動偏心は回転に伴い最小ギャップ位置が移動する現象で、軸曲がりやベアリング隙間過大が主因です。磁気吸引力が周期的に変動するため、回転周波数に同期した振動や騒音ピークが発生します。また磁束変動により電流高調波が増え、効率低下や発熱増大につながることがあります。高速機ほど影響が顕著になります。また、ベアリングクリープにも繋がるため、寿命が非常に短くなる可能性があります。
熱膨張による接触はなぜ起こるのですか?
モータ運転中は銅損・鉄損により温度が上昇し、ロータやシャフト、永久磁石など、あらゆる部品が膨張します。さらに遠心力による径方向変形も加わるため、常温設計のギャップが想定より縮小することがあります。異材間の膨張差も影響し、高温条件のみ異音や振動が発生する事例もあります。最悪の場合、接触やロックにつながります。
ベアリング摩耗はエアギャップにどう影響しますか?
長期運転でベアリング内部隙間が増大すると、ロータ支持剛性が低下しギャップが変動しやすくなります。その結果、振動や騒音が徐々に増加し、消費電流や発熱も上昇します。初期検査では問題が見えにくく、数千時間後に顕在化するケースが多いため、早期の寿命試験にて現設計で問題がないかどうかの見極めをする必要があります。
ロータ振れはなぜ問題になりますか?
ロータの振れ値が大きい場合、回転に伴い最小ギャップ位置が移動する現象が発生し、動偏心と同じような悪影響を発生させます。
偏心問題を設計段階で防ぐには?
静偏心の多くは公差積み上げ設計の見落としに起因します。公差解析により最悪条件の最小ギャップを保証することが重要です。また電磁解析と構造解析を組み合わせ、不平衡磁気吸引力がどの程度増幅するかを確認します。設計初期段階での検証が量産トラブル防止につながります。また、偏心を許容できる数値を設定し、図面に反映させておくことが重要です。
熱膨張対策として何をすべきですか?
常温基準だけでなく、最大負荷・最高周囲温度条件での熱変形を評価します。熱−構造−電磁の連成解析により膨張量を算出し、最小ギャップを確認します。異材使用時は線膨張係数差も考慮が必要です。そして必ず現物を使って高温耐久試験を行い、実機検証も重要です。
製造段階で最も重要な管理項目は?
半径方向の精度が不足すると静偏心の原因になります。嵌め合い箇所の軸・穴の公差を小さく設定することや、ロータ外径真円度などの幾何公差の設定、組立時の芯出し精度を確保します。さらに動バランス調整により回転振動を抑制します。工程能力指数(Cpk)を活用した量産管理が基本です。
制御でどこまで補正できますか?
電流制御によりトルクリップル低減や振動抑制はある程度は可能な場合があります。しかし機械的偏心や構造変形を完全に補うことはできません。制御はあくまで補助的手段であり、基本は設計・製造段階での品質確保が前提となります。
長期信頼性を確保するための実務的対策は?
ベアリング寿命設計(L10寿命+安全率)を十分に確保し、大きな偏心=磁気吸引力を過度に高めない設計を行います。新規構造、新規部品を投入した新製品であれば、市場に製品を投入する前に十分な連続運転試験・ON-OFF運転試験・高温高湿運転試験など、各種信頼性試験を十分な時間おこなうことで、劣化兆候を早期検出します。設計・製造・保全を一体で考えることが長期安定運転につながります。
モータのエアギャップ対応ならユニテックへお任せください
エアギャップの設計は、高性能モータの開発において核心ともいえる領域であり、モータ特性への深い理解が求められる高度な設計分野です。性能を最大限に引き出すための「攻め」と、安定した動作を実現するための「安全性」の両立には、豊富な知見と繊細な調整技術が不可欠です。
ユニテックでは、お客様の使用環境や用途に応じて、トルク・効率・静音性の最適なバランスを追求したカスタムモータの設計・製造を行っております。エアギャップの最適化についても個別に丁寧な調整を行い、要求性能に応じた製品をご提供いたします。どうぞお気軽にご相談ください。

