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モータの位置決め(位置決め制御)とは何か
一般的に「モータ」というと、「電源を入れている間は回り続けるもの」というイメージを持つ方が多いと思います。動かしたいときに電源をON、止めたいときにOFF。車でいえば、タイヤを回したいときにアクセルを踏み、止めたいときにブレーキを踏む、そんな動作に近いイメージです。
一方で「位置決め」という使い方は、これとは少し異なります。たとえば物流倉庫での自動搬送コンベアを想像してみてください。ベルトコンベアの上に段ボールが置かれると、センサがそれを検知して自動的にベルトが動き出し、10メートル先、15メートル先など、指定の位置まで運んだところでピタッと停止するといった動作を行うことができます。このとき、作業員が運転開始スイッチを押したり、段ボールの位置を目で追って止めたりしているわけではありません。モータが「段ボール位置」を自分で判断して止まるように制御されているのです。
つまり「位置決め」とは、目標の定位置に精度良く停止させることを言います。そしてこの動作を実現するための制御を、位置決め制御(位置制御)と呼んでいます。
先ほどのベルトコンベアのように、装置やロボットなどのシステムでは、「どの位置まで動かすか」「どの角度で止めるか」といった精密な制御が必要となる場面が多くあります。モータをただ“回す”のではなく、“正確に止める”ことが求められる。こうした用途では、位置制御が欠かせません。
今回はこの「位置決め制御」について、もう少し深く掘り下げていきましょう。

制御方式の例
位置制御の実現にはいくつかの方式があります。ここでは3つを紹介します。
オープンループ制御
モータに対して「指令」だけを送る制御方式です。フィードフォワード制御とも呼ばれ事前予測に基づいて制御を行う方式です。
動作の結果を検知するセンサやフィードバック回路を持たないため、構成が非常にシンプルで、コストを低く抑えられるというメリットがあります。一方で、モータにかかる負荷の変動や外乱によって、狙った位置に止められないといったことが起こりやすいのが弱点で、高い精度を必要とする位置決め用途には不向きです。
クローズドループ制御
エンコーダなどのセンサを用いて、モータの回転軸の現在角度位置や回転数を検出しながら制御する方式です。モータの動作を常に監視し、設定した目標値(角度位置や回転数)に近づくように出力を調整し続けるため、外乱や負荷の変化に強く、正確な位置決めが可能になります。
フルクローズドループ制御
フルクローズドループ制御とは、モータ単体の位置ではなく、モータの動作によって制御される「ワーク(駆動対象)」の位置を直接検出して制御する方式です。
先ほど例に挙げた「ベルトコンベア上の段ボールの移動」は、この考え方を理解するのにちょうど良い例です。段ボールの位置をセンサで直接検出し、目的の位置に到達したらモータを停止させる。つまり、「最終的に動かしたい対象(ワーク)」の位置を見ながら(実際の位置をセンサで直接検知しながら)制御しているのです。
このように説明すると、「段ボールの位置程度であれば、そこまで高精度に制御する必要はないのでは?」と思われるかもしれません。しかしこれはあくまで理解のための「例」として考えてください。実際にフルクローズドループ制御が多く使われるのは、高精度を必要とするシステムです。メカニカルな機構を介したシステムでは、どうしてもバックラッシュ(ギヤ歯のガタ)や弾性変形などにより、理論上の計算では吸収しきれない微小な誤差が生じます。
フルクローズドループ制御では、最終位置を直接センサで検出し、その情報をフィードバックすることで、これらの誤差を補正します。結果として、より高精度な位置決めを実現することが可能となります。
こうした制御方式は精密な装置やロボット機構など、「誤差が積み重なることが許されない領域」で多く採用されています。モータの性能だけでは達成できない精度を、システム全体の制御で補う。それがフルクローズドループ制御の機能です。
位置決め(位置制御)が必要な場面

では、どのような用途で位置決め制御が必要となるのでしょうか。代表的な例をいくつか挙げてみます。
産業用ロボット
アームの角度や先端ツールの位置をミリ単位で制御する必要があります。誤差が生じると作業の精度や品質に大きく影響し、まともな製品が生産できません。
工作機械(CNC装置など)
刃物の位置を正確に制御しなければ、加工寸法がずれてしまいます。位置決め精度は製品精度に直結します。逆に言えば、位置決めが正確にできるシステムをいかに構築するかが、工作機械メーカの技術力の見せ所といえるかもしれません。
搬送装置や自動倉庫
指定した棚やトレイの位置まで正確に移動・停止する必要があります。近年通販業界の活性化により、非常に重要な技術となってきています。
プリンタ・3Dプリンタ
用紙や樹脂層の送り量を正確に制御することで成り立っている装置です。位置決め技術がなければ印刷できない、非常に重要な役割を持っています。
検査装置
試料ステージや測定ヘッドなどを精密に動かすことが求められます。位置決め精度が装置の性能・信頼性に直結するので、非常に高い技術が求められる分野です。
モータ選定のポイント

位置決め用に使用できるモータ
位置決め制御を行うためには、モータが「どの位置にいるか」を正確に把握し、その情報をもとに制御を行う必要があります。このため、位置情報を取得できる機構(センサやエンコーダ)を備えたモータ、もしくはその機構を接続できるモータが対象となります。代表的なモータとして、以下の3種類が位置決め用途に多く使用されます。
ステッピングモータ
パルス信号を段階的に送り込むことで、一定角度ごとに制御できるモータ。センサを使用せずにある程度の高い精度の位置制御が可能な点が、他のモータにはない特徴です。ただし負荷が大きすぎると脱調(指定した回転速度司令についていけず、モータが停止する状態)が生じることがあり、高速動作や外乱変動にはやや不向きです。
サーボモータ
モータにエンコーダやフィードバック回路を搭載し、常に現在位置を監視しながら制御を行うモータ。高精度・高応答性に優れ、産業用ロボットや工作機械などに多く採用されています。一方で、制御装置が複雑でコストも高くなる傾向があります。
ブラシレスDCモータ
モータ単体では、回転・停止のみしか動作しないモータですが、センサ類(ホールセンサや外部エンコーダ)を追加することで、位置決め制御モータとして使用が可能になります。構造がシンプルで耐久性も高く、用途によってはサーボモータよりも重宝されます。
設計目的・用途
位置制御を行う目的や用途によって、最適なモータの種類は変わります。同じ「位置決め」といっても、必要とされる精度、速度、負荷条件は装置ごとに異なるため、特徴を理解したうえで選定することが大切です。
ステッピングモータは、プリンタや3Dプリンタ、小型搬送装置など、比較的軽負荷で中程度の精度が求められる場面に多く使われます。センサ不要のオープンループ制御により、シンプルな構成で一定の位置制御が行えることが特徴です。一方で、外乱や負荷変動が大きい環境では、脱調が発生するリスクがあります。そのため、想定外の衝撃や外力が加わりにくい、安定した条件下での使用に限定されることが多いです。
サーボモータは、エンコーダやセンサを標準搭載しており、モータの状態を常に監視しながら制御を行います。このフィードバック制御によって、最も高い精度と応答性を発揮できるモータです。負荷の変化に強く、ロボットアームやNC工作機など、高速・高精度の動作が求められる産業機器に最適です。一方で、制御装置が複雑になりやすく、導入コストも高くなる傾向があります。
ブラシレスDCモータは、もともとファンやポンプなどの連続回転用途で多く採用されてきたモータです。しかし近年では、制御回路の発展により拡張性・カスタマイズ性の高いモータとして注目されています。設計段階でセンサや制御回路を組み合わせることで、システムに合わせた最適化が可能です。エンコーダやセンサを用いて必要最低限の位置検出を行うといった使い方もでき、高精度を必要としない用途では低コストかつ柔軟に対応可能です。このように、ブラシレスDCモータは他のモータと比べても拡張性と応用範囲が広く、用途やシステム要件に応じて性能を調整できるモータといえます。
位置決め精度
位置決め制御において最も重要な指標のひとつが「精度」です。どの程度の誤差を許容できるかによって、選ぶべきモータの種類は大きく変わります。モータ単体の性能だけでなく、制御方式やセンサ構成も大きく影響するため、求められる位置決め精度に見合ったモータを選定することが大切です。
ステッピングモータは、構造上ステップ角ごとの停止が得意で、中精度程度の制御に向いています。オープンループで使用されることが多いため、負荷変動や摩擦などの外乱がある環境では、高度な精度を実現することは難しい場合もあります。
サーボモータは、エンコーダの分解能によって高精度の制御が可能です。高精度測定や精密加工など、誤差が許容されない用途で採用されます。
ブラシレスDCモータは、センサーなしの単品駆動では厳密な位置決めはできません。しかしエンコーダなど外部装置の機能を組み合わせることができるため、必要な精度に柔軟に対応できます。サーボモータほどの精度が不要な場合、たとえば、搬送装置などで「指定位置に停止すれば多少の誤差が生じても十分」といった用途では、コストを抑えながら位置決めを実現できる最適な選択肢となります。
コスト
モータを選定するうえで、性能と並んで重要な要素が「コスト」です。位置決めを行うシステムでは、モータ単体だけでなく、制御回路・センサ・ドライバなど周辺機器の構成によっても全体コストが大きく変動します。求められる精度と機能を過不足なく満たしながら、コストを最適化することが大切です。
ステッピングモータは、構造がシンプルで制御回路も比較的容易なため、初期導入コストを抑えることができます。センサを用いずに位置制御を行える点もコスト面での大きな利点です。ただし、脱調が発生すると制御精度が保証できなくなるため、場合によっては位置検出センサの追加やトルク余裕の確保が必要となり、その分コストが上がる場合もあります。
サーボモータは、エンコーダや制御回路を標準で搭載しており、高精度・高応答性を実現できる反面、価格は最も高価です。専用ドライバや調整用ツールが必要となることも多く、システム全体の開発・調整コストも増加します。
ブラシレスDCモータは、中価格帯で最もバランスの取れたモータといえます。もともと連続回転用途が中心であるため、標準構成では安価に導入できます。さらに、ブラシレスDCモータの特性を理解し、必要に応じてホールセンサやエンコーダを追加することで、速度制御や位置制御機能を段階的に拡張できる柔軟性があります。
必要に応じたコントローラ設計の自由度も高く、量産機器などコストパフォーマンス重視の分野で特に有効です。
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