モータを使いこなすために欠かせない周辺装置の一つに「減速機」があります。その名の通り、回転速度を減らす機能を持っているのですが、減速による恩恵は大きく、トルクを増やすことができたり、位置制御の精度を高めたりといったことも可能です。多くの場合、減速機というと、歯車式(ギヤ)をイメージすることが多いと思いますが、減速機にはさまざまな種類が存在し、歯車式はその中の一つに過ぎません。内部構造も、得意分野も、特徴の異なるものが存在します。そのため、用途に合わせた選定がとても大切です。
今回は、4種類の減速機を取り上げ、それぞれの特徴やメリット・デメリットをまとめていきます。選定の参考にしていただけると幸いです。
Contents
減速機の種類

歯車式減速機(ギヤ減速機)
まずは最も一般的な減速機である歯車式減速機について説明します。モータの出力軸にギヤを取り付け、複数のギヤ同士を噛み合わせることで回転速度を落とす仕組みです。噛み合わせるギヤの歯数を調整することで、任意に減速比の調整が可能です。産業機器から家電、おもちゃまで、幅広く使われる減速方式です。
特徴
構造が比較的シンプルで、力の伝達経路が明確で理解しやすいこともあり、古くから幅広い分野で用いられてきた方式です。使用される歯形にはストレート形状の平歯車、静音性を高めたはすば歯車、直角方向に力を伝えるウォームギヤ、省スペースながら高トルクを出力できる遊星(プラネタリ)ギヤなど、多様なバリエーションが存在します。これらはもちろん単に形が違うだけではなく、静音性・効率・占有スペース・コストなど、それぞれが得意なパラメータが存在します。用途に応じて適切な構造を選択し、要求とされるスペックを満たす、といった設計が可能です。
メリット
歯車式減速機の最大の強みは、「汎用性が高い」という点かと思います。歴史が長く、技術が成熟していることもあり、安価に高効率で安定した力の伝達を実現できます。歯形形状の種類が豊富であるためさまざまな条件に対応でき、用途に合わせやすいため、一般的な減速用途のほとんどはカバーできるかと思います。
デメリット
まず挙げられるのは、歯車同士が噛み合うことで騒音・振動が発生するという構造上の避けられない要素です。歯面同士が周期的に接触することで微小な衝撃が生まれ、これが振動や音となって外部に現れます。特に負荷が大きい場合は、噛み合い力も増し、微細な衝突が強調されるため、振動・騒音レベルは上昇します。構造上、避けようがないノイズ源であり、静音性が要求される装置では課題となることがあります。
もうひとつのデメリットが、バックラッシ(歯と歯のわずかなすき間)が必ず存在することです。歯車は潤滑油を保持し、スムーズに噛み合うために適度なクリアランス(=隙間)を確保する必要があります。しかし、このクリアランスがあることで、出力軸の回転方向を切り替える際に微小な「遊び」が発生し、応答遅れや位置決め誤差の要因となります。この現象は、半導体製造装置などの高精度位置決め用途では無視できない問題となってきます。
主な用途
産業ロボット・コンベヤ・自動ドア・コンプレッサ・ミキサー・洗濯機などなど、シンプルな構造ゆえ、減速機としてまず候補に入るものなので、非常に多くの用途に使われています。
摩擦式減速機(トラクションドライブ)
歯車による噛み合いではなく、円盤・ローラ・円筒などを互いに押し付けることで力を伝達・減速する機構です。高圧力を加えると高粘度化するグリース介して、回転を伝える構造を持ちます。接触する半径を調整することで減速比を設定できます。
特徴
噛み合い構造を持たない非常にシンプルな構造という点が大きな特徴です。回転体同士を押し付けて回転させ、トルクを伝達します。可変半径で速度を連続的に調整できるCVT(無段変速機)を実現できることが大きな特徴です。さらに、歯車式では避けられないバックラッシが構造上ほぼ存在しないため、回転方向を切り替えた際の「遊び」が小さく、滑らかな応答が得られる点もこの仕組みならではの特徴といえます。
メリット
圧倒的な静音性の高さがメリットの一つです。回転体同士が面で接触し、動力を伝達する機構のため、歯車式のような断続的・周期的な接触は発生せず、振動・騒音は低く抑えられます。加えて、先述の通りバックラッシが極めて小さいため、滑らかな加減速や自然な回転フィーリングが得られることも特徴です。
デメリット
歯車のように、構造的に「引っかかる」機構がないため、動力側の回転数をロスなく伝えることが難しく、伝達時にすべりが発生する可能性があります。そのため、原理的に大きな力の伝達には効率が悪く、不向きです。歯車式と同等の伝達力を与えるとすると、サイズが大きくなってしまう点や、潤滑油を介して動力を伝えるため、温度が上昇すると動力伝達効率が低下する点(=熱に弱い)も、デメリットとして挙がります。
主な用途
なめらかでガタのない伝達は大きなメリットです。この点を活かして、印刷のズレ防止の目的で印刷機に使われたり、静音性を求める小型ロボットなどにも使われたりしています。
ハーモニックドライブ(波動歯車)
最後に、精密制御分野で存在感を持つハーモニックドライブについて説明します。ハーモニックドライブは、薄い金属製の柔軟な円筒(フレクスプライン)を偏心カム(ウェーブジェネレータ)で変形させ、その外側にある固定歯車(サーキュラースプライン)との歯数差を利用して大きな減速比を得る仕組みです。歯車が変形しながら噛み合うという独特の原理により、極めて大きな減速比と、ほぼゼロに近いバックラッシを実現します。
以下は参考動画です。
高精度が求められるロボット、医療機器、半導体製造装置などで広く採用される、精密減速機の代表格です。
特徴
「歯車をできるだけ変形させない」という従来の考え方とは大きく異なり、「歯車を積極的に変形する」という全く新しい考え方を持った、独特の構造が最大の特徴です。偏心した波形カムによって、外周に歯のついたリング状の部品を押し広げ、外周上の歯の一部が、内周に歯のついたとリングと噛み合います。「変形しながら噛み合う」というメカニズムにより、一般的な歯車では実現しづらい高減速比・高精度・高トルク密度をコンパクトに得ることができます。
また、歯数差によって噛み合い点が周期的に移動するため、歯への負荷が分散されるという特徴もあります。
メリット
バックラッシをほぼゼロにできる点が大きなメリットです。歯が常に両方向から押し付けられながら噛み合う構造によって実現されており、位置決めがシビアな用途では圧倒的な優位性を発揮します。ロボットの関節制御、半導体装置の微細位置決めなど、微小な誤差が許されない分野では有力な構造となります。
一段で高い減速比を得られることも重要なメリットです。装置全体のコンパクト化に貢献します。軽量で小型ながら高トルクを扱うことができ、省スペース化が課題となる場面で特に効果を発揮します。
また、歯の噛み合いが広い範囲で行われるため、トルク密度が高くなっています。
デメリット
薄肉の金属を繰り返し弾性変形させる仕組みであるため、疲労による寿命が避けられないことが大きなデメリットとして挙げられます。中長期の繰り返し負荷により金属疲労が進行し、バックラッシの増加や破損のリスクが高まるため、他の減速方式に比べると寿命は短めです。
また、コストが非常に高いことも大きなデメリットとなっています。加工精度が非常に高く要求され、部品製造から組立まで製造難易度が全体的に高いため、コストが他方式と比べて圧倒的に高くなります。
主な用途
ハーモニックドライブは、その精密性・高減速比・コンパクトさから、産業ロボットの関節部などの高精度位置決めが必要な部分や、半導体製造装置のステージ制御、航空宇宙機器、光学機器の微細駆動部などに使われます。位置精度、コンパクトさ、トルク密度が高いレベルで求められる場合は、ハーモニックドライブは非常に有用な選択肢となります。
サイクロ減速機
モータの出力軸に取り付けた偏心カムが「サイクロイド曲線」を外周に持つ円盤(サイクロイドカム)を揺動させ、その外周に配置された多数のピンと転がり接触させることで減速を行う仕組みです。(言葉でその動きをイメージするのはとても難しく、また画像での説明も難しいため、動画などを検索していただくことをおすすめします。)
ここまで説明してきた2種類とも異なり、面接触かつ多点接触という非常に多くの面積でトルクを伝達するため、極めて大きなトルクを出力できることが特徴です。
以下は参考動画です。
特徴
この減速機の特徴はなんといっても、サイクロイドカムと、外周に設置されたピンの独特な転がり運動によって減速を実現する点にあります。通常の歯車は歯と歯の線接触で力を伝えますが、この減速機はカム全面が面接触しながら多数のピンで荷重を受ける構造になっています。
メリット
面接触・多数のピンで荷重を受ける、という構造により、局所的な応力が発生しにくく、衝撃や過負荷に対して非常に強いという特性があります。そのため、歯車式に比べて疲労や欠けが発生しにくいため、保守性の観点でも高く評価されます。
また、サイクロイドカムは一つの入力回転に対して複数のピンと同時に噛み合うために、バックラッシを極めて小さく抑えることができ、滑らかな回転伝達が可能です。これは、精度が必要な分野にも適しており、近年ではロボット用途での採用も増加しています。
高減速比を一段で得られる点も重要なメリットです。歯車式で同じ減速比を実現しようとすると複数段が必要になりますが、サイクロ方式は単段で済むため、高トルク密度の減速機であるといえます。
デメリット
ここまでの説明では、良いことずくめの様に聞こえますが、一方で弱点も存在します。まず、構造が独特で部品点数も多いため、製造コストが歯車式に比べて高くなりがちです。サイクロイドカムの加工には高い精度が要求され、組立工程も複雑となるため、高価格帯の製品になりやすい傾向があります。
また、構造的に小型化は難しい側面があり、超精密用途や超小型用途には向きません。大型・中型の高トルク用途こそ、この減速機の真価を発揮する領域といえます。
主な用途
高い耐久性と大トルク伝達能力から、産業ロボットの関節部、ポンプや自動車などの駆動部分、船のスクリュー、航空機や風力発電のプロペラ部といった、重負荷・長寿命・高信頼性が求められる用途で広く採用されています。衝撃荷重がかかる環境でも安定して使用できるため、産業用途では欠かせない存在となっています。
減速機の選定ポイント

基本的に、ほとんどの用途では歯車式減速機が使えることが多いです。減速機を使用することがまったくの初めてであるならば、メーカーと相談し、歯車式減速機にて試作品を作ってみることをおすすめします。
とはいえ、重視すべき特性が明確になっているのであれば、歯車式で検討することなく、最初から適切な減速機で評価を進める形で良いかと思います。どの減速機を使うべきなのか、およその目安をつけられるように、各減速機の評価を表にまとめましたので参考にしていただければと思います。
※実際の使用環境・条件により、必ずしも表のとおりにはならないことはご理解ください

減速比(=出力トルク)
歯車式:高減速比は可能だが、多段化が必要なため、スペースもある程度必要。
摩擦式:摩擦依存のため大トルクに弱い。
サイクロ:単段で超高減速比・大トルク。
ハーモニック:単段で超高減速比・大トルク。
精度・バックラッシ
歯車式:バックラッシは必ず存在。
摩擦式:バックラッシがない状態も実現可能。ただし、滑りの影響も考慮必要。
サイクロ:多点接触でバックラッシは小さめ。
ハーモニック:構造的にバックラッシほぼゼロ。
騒音
歯車式:噛み合い音あり。
摩擦式:構造上もっとも静か。
サイクロ:歯車より静か。
ハーモニック:歯車の中でも低騒音。
効率
歯車式:使用により差はあるものの、効率は高め。
摩擦式:摩擦熱・滑りの影響あり。
サイクロ:構造的にロスがすくなく、効率は高い傾向。
ハーモニック:変形を伴う駆動が効率に影響。
寿命・メンテ性
歯車式:成熟技術で長寿命・メンテ容易。
摩擦式:摩耗・滑りの影響あり。
サイクロ:衝撃に強く、寿命が長い部類。
ハーモニック:薄肉金属の変形疲労の影響もあり、寿命短め。
コスト
歯車式:量産性高く安価。
摩擦式:同等トルクではサイズ大のためコストは低くはない
サイクロ:精密部品が多く中価格帯。
ハーモニック:超精密加工が必要で最高価格帯。
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