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駆動モータとは
工場の生産ラインから電気自動車、家庭の家電製品に至るまで、あらゆる働きを生み出す要素としてモータが使われているのは、皆さんご存じのとおりです。その機能は本当に多岐にわたり、さまざまな働きを実現することができますが、中でも動力を与えて動きを生み出す用途に使われるモータを、「駆動モータ」と呼ぶことがあります。今回は駆動モータの制御方法や、混同しやすいアクチュエータとの違い、そして主な用途や種類について、みていこうと思います。
駆動モータとは、生み出した回転運動を、装置やシステムを物理的に「動かす」ためのモータのことを指します。単にモータという言葉が使われることも多いですが、意図的に「駆動」という言葉を加えて使うことで、負荷(機械や装置)に機械エネルギーを与え、直接的に動かす、移動させるといった用途であることが明確になります。

具体例をあげれば、ベルトコンベアを動かすモータ、車輪を回すモータ、ロボットの関節を動かすモータなどが、駆動モータにあたります。とりわけ、複数モータが搭載されている装置において、他のモータと呼び分けるために使うこともあります。具体例として、お掃除ロボットを考えてみましょう。お掃除ロボットには、下記のようなモータが使われています。
お掃除ロボットで使われているモータ
- 移動のための車輪を回すモータ
- 移動方向を変えるために車輪の向きを変えるモータ
- ゴミをかき集めるブラシを回転させるモータ
- ゴミを吸引するためのファンを回すモータ
もちろん使われているモータは、各社が販売する製品ごとに変わりますので、上記はあくまで一例です。しかしどの製品にも、モータが「複数個」使われていることはほぼ間違いないと思います。こういった複数モータが使われる装置のなかで、「移動のための車輪を回すモータ」は、駆動モータと呼ばれます。最も重要な機能を果たすモータであるため、設計時も重要視されることもあり、呼び分けのために「駆動モータ」という言葉を使うことがある、と考えていただければと思います。
駆動モータの制御方法
駆動モータの制御には、大きく分けて「オープンループ制御」と「フィードバック制御」があります。オープンループ制御は、モータがどのように回転しているかの状態をチェックすることなく、モータを動作させる方式です。モータはどのような負荷を与えるかによって、回転速度や電流値、発熱状況などが変化しますが、こういったことを監視せず、駆動のための一定の電圧・電流を入力するのみ、といった制御方式です。構成がシンプルでコストも抑えられるため、小型機器や回転精度をあまり要求しない用途で多く用いられます。
一方フィードバック制御は、モータの回転位置や速度をセンサ(エンコーダやホール素子など)でリアルタイムに検出し、入力信号にフィードバックすることで誤差を補正しながら動かす制御方式です。たとえば目標として設定した回転速度に対し、実際の回転速度が遅れていることを検知すると、自動的に電圧・電流を増加させ、回転速度を調整するように制御システムが働きます。この仕組みにより、負荷変動や外乱の影響を吸収して、高精度な位置決めや安定した速度制御が可能となります。
ロボティクスや車載機器、医療機器などにおいては、精度が求められる場合が多く、フィードバック制御が主流となっています。問題が起きたときもそれを検知できるので、信頼性が高いことも選ばれる理由の一つです。「精度は欲しいけれどコストはかけたくない」といった状況では、ステッピングモータが使われることもあります。信頼性はフィードバック制御に劣りますが、外乱の影響やイレギュラーなことが起きにくい用途であれば、オープンループ制御で位置制御や回転速度制御を高精度で実現できます。
サーボモータやアクチュエータとの違い
「サーボモータ」とはフィードバック制御を採用した、高精度な位置決めや速度制御機能を標準的に持ったモータのことを指します。特定の機能を持ったモータの種類として、定義されているものです。一方、駆動モータという言葉はより広義で、使い方を基準としています。サーボモータもその一部に含まれ、駆動モータにサーボモータが使われるといったこともあります。
「アクチュエータ」は「モータ」と混同しやすい言葉として有名ですね。アクチュエータは「動作を生み出す装置全般」を指す言葉です。動作を生み出す装置には、モータはもちろん、油圧や空圧などを使ったものも存在します。これらを一括りにしてアクチュエータと呼んでいます。つまり、モータはアクチュエータを構成する一要素です。なかでも、駆動モータはアクチュエータとしての役割を果たすメイン装置と言って良いと思います。
駆動モータの主な用途

産業用設備
駆動モータは、工場の生産設備・搬送ライン・自動包装機など、あらゆる産業機械で使われています。特に生産設備の自動化分野では、人の代わりを果たすための重要な要素を担います。位置決め・速度制御・トルク制御が求められるため、フィードバック制御を搭載したサーボモータやブラシレスモータが多く使われます。
自動車関連
あらゆる機器へのモータ搭載が進むなか、自動車はその代表格であり、電動化や高性能化に伴い車1台に搭載されるモータの数も100を超えるものが出てきています。当然その中でも、駆動用としてのモータが数多く存在します。トラクションモータ、パワーステアリング用モータ、ワイパー用モータ、パワーウインドウ用モータなどなど。自動車関連機器は、各社日々研究が進められており、これからも駆動モータが使われる箇所が増えていくと予想されます。
インフラ・建設機械
鉄道、エレベータ、建設用重機などでも駆動モータは重要な役割を担っています。大型設備を扱うために高トルク・高耐久性が求められ、AC誘導モータやPMモータが主に使用されます。
ロボット・精密機器
冒頭に紹介したお掃除ロボットや、近年当たり前になってきたファミリーレストランでの配膳用ロボット、AGV(無人搬送車)、AMR(自律走行搬送ロボット)などの搬送ロボットにおいても、駆動モータは必須となります。自律的に動き回るこれらの機器は、障害物を回避するといった機能を果たすために、あらゆるセンサーとの連携が必要であるため、常に駆動状況を確認しながら動作しています。そのため、フィードバック制御を搭載した駆動モータが使われています。また軽量・省スペース化のため、インホイール構造の採用も増えています。
家庭・生活家電
洗濯機の水流を作るモータ、エアコンの風を送るファンを回すモータ、掃除機の吸引力を生み出すモータなど、私たちの暮らしの中でも駆動モータは広く使われています。省エネ性、静音性、安全性が重要視されるため、フィードバック制御により動作状況が最適化されています。
駆動モータの種類
AC同期モータ(PMモータ)
永久磁石を使った同期型のACモータです。固定子(ステータ)に電流を流すことで磁界を発生させ、ロータに埋め込まれた永久磁石との引力・反発力により回転が生じます。
電流の切り替えタイミングは電源周波数に依存し、ステータによって発生する磁界回転速度とロータの回転が一致する(同期)ことから、その名前がつけられています。高効率かつ高トルク密度が特徴で、EVや産業ロボットなど高性能が求められる分野で広く採用されています。
同期モータ(PMモータ)に関しては、以下記事で詳しく解説していますので、こちらもご覧ください。
同期(PM)モータの基礎知識|高効率・高精度でコンパクトな制御が可能
AC誘導モータ
ロータ内に永久磁石を用いず、誘導電流を発生させて回転するモータです。常にわずかに磁界より遅れて回転する「非同期モータ」であり、永久磁石を使っていないことから、効率・応答性・精度など、PMモータに劣る点が多くあります。一方で構造がシンプルでコストも安く、堅牢(けんろう)性に優れることが強みであり、重負荷・連続運転に強く、インフラ設備や産業用搬送機器などで多く活躍しています。
ブラシレスDCモータ
ブラシを持たず電子的に整流する構造により、長寿命・高効率・低騒音を実現しているモータです。センサレス制御やベクトル制御と組み合わせることで、車載・医療・家電・ドローンなど広範囲に応用されており、あらゆる分野で耳にすることが増えてきています。
ブラシレスDCモータの設計方法や選定のポイントについては以下記事もご覧ください。
ブラシレスDCモータ|設計・制御方法+選定チェックリスト
ステッピングモータ
与えられた電気信号のパルス波に応じて一定角度ずつ回転するモータです。オープンループ制御でも、比較的容易に位置制御が可能であり、3Dプリンタ、監視カメラ、分析機器などで重宝されています。ただ、高い負荷を与えてしまうと脱調という現象が発生し、回転が止まってしまうというやや制御性が難しい特徴があるため、高負荷用途には向きません。
インホイールモータ
モータをホイール内部に直接組み込んだ構造を持つのがインホイールモータです。電動アシスト自転車や搬送ロボットなどに採用されており、駆動系のシンプル化と高効率化に貢献しています。
従来は、車体中央のモータから各車輪に動力を伝えるためのギアやシャフトが必要でしたが、インホイールモータではそのような伝達機構が不要になります。その結果、省スペース化が図れるだけでなく、空いたスペースにバッテリーパックを配置できるため、インホイールモータとバッテリーは非常に相性の良い組み合わせといえます。
インホイールモータに関しては、以下記事で詳しく解説していますので、こちらもご覧ください。
インホイールモータ入門|仕組みから用途まで基礎知識を理解
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ユニテックでは駆動モータとして使える製品を数多くご用意しております。インホイールモータのラインナップもあり、バッテリー駆動を前提としたご提案も可能です。お困りの際はぜひご相談ください。